高田朝子

責任感のある人ほど自分の体調を鑑みずに仕事に対して忠実に動く。その結果として体調不全の中の出社が起きる。ウイルスの感染を広げているのは、こうした日本人の「出社至上主義」にあるのだ。 なぜ具合が悪いのに出社してしまうのか。組織行動学者の視点からみると、「似たもの同士コミュニティ」の行動特性が存分に発揮された結果だと理解できる。同じような教育、同じような考え方、同じような経験を持った人々を日本企業は長い時間をかけて集めて組織化してきた。「わが社に合うかどうか」は長い間、採用の最も大きな基準だった。「わが社に合う」似たような人々を採用し続けた結果、日本企業は同質性の高い「似たもの同士コミュニティ」となった。 昨今では人口減少の煽りをうけて、女性も多く採用するようになり徐々に変化はみられるが、このコミュニティのメインプレーヤーは男性で、意志決定は圧倒的におじさんが中心として担ってきた。 人は自分と同じ要素のある人間を本能的に好む。ダイバーシティの重要性を声高に企業は叫べども、結果的にはある一定の幅の中での採用である。飛び抜けて異質な人を積極的に採用することは稀である。似たような経歴、似たところのある人々が企業に集い、組織が形成されている。この種の似たもの同士コミュニティは一緒に居るとメンバー間の心理的な安心度が高い。似たもの同士はお互いを察しやすいし、そもそも似たようなマインドセットを持つ。 似たもの同士コミュニティが人々にもたらすのは、組織の中で「集団の掟から外れた者認定をされたくない」という渇望である。似たもの同士コミュニティでは他人に迷惑を掛けることを恐れる。互恵が集団の絶対的なルールだからである。 人手不足の中で休むことは、その分をやる人が必要で他人に負荷がかかる。高熱が出ていて誰が見ても理由がたつような状態ならばともかく、体調不良程度で休むことはずる休みと思われないか。大義名分なく休んだことで誰かに負担がかかると、互恵のルールを壊した、つまり「集団の掟から外れた者認定」をされることへの不安感から無理をして出社する。 一方で、一人で抜け駆けして皆と違う行動をとると組織からの長期的な援助と、仲間からの互恵にあずかることができないという不安も持つ。集団の掟を破ることについての危惧が何重にも積み重なり、自分で判断することができない思考がフリーズした状態になる。外れ者認定されたくないがゆえに、国や企業トップからの強制的な指示をひたすら待つ。 自分で決めたならば集団の中の異常行動だけれども、上からの指示だったらそれを守るのは正常行動だからである。体調が悪くて欠勤して後で不合理な扱いを受けたくないとの思いが無理にでも出勤する意思決定となる。時間だけが過ぎていき、ウイルスが蔓延していく。